入院でかかるお金は、3つに分けて考える

「入院したら何十万円もかかるのでは」「医療保険に入っておかないと不安」。そう感じて、加入や保障の追加を考えている人もいると思います。

医療保険が必要かどうかは、人によって違います。手がかりは、入院でかかるお金を「上限のある医療費」「上限の外にある費用」「休んで減る収入」の3つに分けることです。それぞれを公的制度・勤務先・貯蓄でどこまで払えるかを確かめ、足りない部分があれば医療保険を含めた備え方を考えます。

※この記事は、会社員などで健康保険に加入している70歳未満の方を主な対象にしています。2026年10月時点の公的な情報による一般的な説明です。

入院すると、お金の出ていき方は1つではありません。まず全体を3つに分けます。

かかるお金中身主な公的な仕組み
① 保険診療の自己負担治療・手術・入院料などのうち、窓口で払う分高額療養費(1か月の上限)
② 上限の外にある費用入院中の食事代、希望した個室の差額ベッド代、先進医療の技術料、交通費や日用品などなし(自分で払う)
③ 休むことによる収入の減少仕事を休んでいる間の給与傷病手当金(会社員などの健康保険)

①には上限がありますが、②と③には別の考え方が必要です。医療保険は、主に「入院した日数」や「手術」などの条件に当てはまったときに、決まった額を受け取るものです。①〜③のどれにどれだけ役立つかは、契約の内容によって変わります。

① 保険診療の自己負担には、1か月の上限がある

病院の窓口で払う医療費(保険診療の自己負担)には、高額療養費制度によって1か月(1日から月末まで)の上限があります。上限は年齢と所得で決まります。2026年8月診療分から見直され、8月から翌年7月までの1年間の上限(年間上限)もできました。

70歳未満の上限(2026年8月〜2027年7月)

所得の区分(年収の目安)会社員などの健康保険の標準報酬月額1か月の上限年間上限
約1,160万円〜83万円以上270,300円+(医療費-901,000円)×1%168万円
約770万〜約1,160万円53万〜79万円179,100円+(医療費-597,000円)×1%111万円
約370万〜約770万円28万〜50万円85,800円+(医療費-286,000円)×1%53万円
〜約370万円26万円以下61,500円53万円
住民税非課税―36,900円29万円

出典:厚生労働省「高額療養費制度の見直しについて」、協会けんぽ「高額療養費簡易試算(70歳未満用)」(2026年10月20日確認)

たとえば、年収約370万〜約770万円の区分の人が、1か月に100万円の治療を受けた場合、自己負担の上限は92,940円です(85,800円+(100万円-28万6,000円)×1%)。

治療が長引いたときの仕組み

  • 多数回該当:直近1年間に3か月以上上限に達すると、4か月目からは上限が下がります。上の区分「約370万〜約770万円」なら44,400円です。
  • 年間上限:8月から翌年7月までの1年間で、自己負担の合計が年間上限に達すると、それ以上は払い戻しを受けられます。

同じ区分の人が、毎月100万円の治療を12か月続けた場合(架空の計算)、月ごとの上限を足すと67万8,420円(92,940円×3か月+44,400円×9か月)ですが、年間上限があるため自己負担は53万円までになります。

窓口での支払いを上限までに抑える方法

高額療養費は、何もしないと、いったん窓口で3割などを払い、後から払い戻しを受ける形になります。入院や手術で医療費が高くなるとわかっている場合は、マイナ保険証を使うか、加入している健康保険から「限度額適用認定証」を受け取って病院に出すと、窓口で払う金額を上限までに抑えられます(マイナ保険証の場合は事前の申請は不要です。協会けんぽ)。

自分の区分と、勤務先の上乗せを確認する

自分の区分は、加入している健康保険(協会けんぽ・健康保険組合など)で確認できます。勤務先の健康保険組合によっては、自己負担がさらに軽くなる「付加給付」がある場合もあります。付加給付がある人は、①の負担が上の表よりも小さくなります。

なお、2027年8月からは所得の区分がさらに細かく分かれる予定です。

② 上限の外にある費用は、自分で払う

高額療養費の上限は、①の保険診療の自己負担だけにかかります。次の費用は対象外です(協会けんぽ・厚生労働省)。

費用ポイント
入院中の食事代一般の所得の人は1食510円(2025年4月から)。20日入院すると3万600円
差額ベッド代希望して個室などに入った場合の料金。金額は病院や部屋で違う
先進医療の技術料全額自己負担。通常の治療と共通する診察・検査・投薬・入院料などは保険診療と同じ扱い
交通費・日用品など通院や家族の面会の交通費、パジャマ・日用品、子どもの預け先の費用など

差額ベッド代は、いつでもかかるわけではありません。 厚生労働省の通知では、次のような場合は病院が差額ベッド代を求めてはならないとされています。

  • 同意書で、本人の同意を確認していない場合(同意書に室料の記載や署名がないなど、内容が不十分な場合を含む)
  • 治療上の必要があって個室などに入る場合
  • ほかの病室が満床などで、実質的に本人が選んだわけではない場合

入院のときに個室を案内されたら、料金と、自分で選ぶものかどうかを確認しましょう。

③ 休んで減る収入には、傷病手当金がある

もう1つ大きいのが収入の減少です。会社員などが病気やけがで仕事を休み、給与が出ない場合、加入している健康保険から傷病手当金が出ます(協会けんぽの場合)。

  • いつから:連続して3日休んだ(待期)あと、4日目から。待期の3日には有給休暇や土日・祝日も含まれます
  • いくら:1日あたり「直近12か月の標準報酬月額の平均÷30×2/3」
  • いつまで:支給を始めた日から通算して1年6か月
  • 給与が出ている場合:給与が出ている間は支給されません。給与が傷病手当金より少ない場合は、差額が支給されます

つまり、休んでいる間の収入は、おおむね給与の3分の2程度になります。

自営業などが加入する国民健康保険では、傷病手当金は市区町村などの保険者が条例などで定めた場合の給付です。加入先で有無を確認してください。

架空の例:1か月入院・休業したら、いくら足りない?

※ 以下は説明のための架空の例です。実在の人物や相談事例ではありません。 会社員Dさん(40歳)。標準報酬月額は36万円で、直近12か月も同じ。所得の区分は「約370万〜約770万円」。 病気で20日入院し、退院後の自宅療養を含めて1か月(30日)仕事を休んだ。この間、給与は出なかった。 医療費(保険診療)は総額100万円。窓口ではマイナ保険証を使用。勤務先の付加給付はなし。個室は希望していない。

かかるお金・減るお金金額計算・前提
① 保険診療の自己負担92,940円85,800円+(100万円-28万6,000円)×1%
② 食事代30,600円510円×3食×20日
② 日用品・交通費など10,000円仮定の金額
③ 収入の減少(給与-傷病手当金)144,000円給与36万円-傷病手当金21万6,000円
合計277,540円—

傷病手当金は、1日あたり8,000円(36万円÷30×2/3)で、待期の3日を除いた27日分の21万6,000円としています。税金や社会保険料は考えていません。

Dさんの場合、1か月で約28万円が「いつもより出ていく・入ってこない」お金です。このうち半分以上は、医療費ではなく収入の減少です。

医療保険に入っていたら、どこまで埋まる?

仮にDさんが「入院1日5,000円」の医療保険に入っていた場合、20日の入院で受け取るのは10万円です(給付の条件は契約によって違います)。①+②は13万3,540円、③は14万4,000円です。

医療保険の10万円で、①と②の多くは賄えますが、③の収入の減少までは埋まりません。医療保険だけで、休んでいる間の収入まで補えるとは限らないことがわかります。

医療保険には、入院日数に応じて受け取るもの、入院や手術で一時金を受け取るものなど、いくつかの種類があります。どの費用に備えたいかによって、合う形は変わります。

医療保険を考える前に確認したいこと

足りない額は、人によって大きく違います。次の4つを確かめると、自分の場合が見えてきます。

  • 加入している健康保険と、自分の所得区分(1か月の上限額)
  • 勤務先の付加給付、傷病手当金、病気休暇や休職中の給与の扱い
  • すぐ使える預貯金から、近く使う予定のお金を引いた額
  • すでに入っている保険や共済の内容(入院・手術の給付、重なりがないか)

確かめた結果は、目安として次のように整理できます。

医療保険の検討を急がなくてよい可能性がある人

  • ①〜③の数か月分を、すぐ使える貯蓄で払える
  • 付加給付や休職中の給与など、勤務先の保障が厚い
  • すでに入っている保険と保障が重なっている

医療保険などの備えを検討する余地がある人

  • すぐ使える貯蓄が少なく、数か月分を払うと生活費が足りなくなる
  • 自営業などで、休むと収入が止まる
  • 差額ベッド代などを自分で選びたいという希望がある

収入の減少が心配な場合は、医療保険とは別に、働けないときの収入に備える方法もあります(「就業不能保険の前に。働けない期間の収入を公的保障でどこまで補えるか」)。保険に入らず、貯蓄で備えるという選択もあります。

すでに医療保険に入っている人は、解約を急がないでください。年齢や健康状態によっては、同じ条件で入り直せないことがあります。

公的制度、勤務先の保障、貯蓄を並べて、自分の場合に足りない額があるかを整理したい方は、ご相談ください。保険に加入しない選択も含めて考えます。

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本記事は一般的な情報提供を目的としています。制度や商品の詳細は公式情報をご確認ください。個別の判断は、ご自身の状況に応じて専門家へご相談ください。